前回乳酸はエネルギー源だと書いたところ、さっそく質問がきました。

「クエン酸は乳酸をたまらなくする」と聞きますが乳酸がエネルギーならクエン酸は摂取しない方がいいのでしょうか?

実は私も乳酸のことを調べるにつれて、同じような疑問を持ちました。
しかし一般的に運動したときには、レモンなどクエン酸を含んだものが美味しく感じますし、
クエン酸を摂取すると疲労感が軽減する感じがします。

本当のところはどうなのでしょう?
そこでクエン酸と運動の関係についての実験を調べてみました。

【クエン酸と運動に関する実験】
(1)NHK「ためしてガッテン 常識が覆る! クエン酸ホントの健康パワー」2004年10月13日放送より
クエン酸と乳酸のラット実験
ねずみに乳酸、クエン酸を摂ってもらい、どれだけ運動を続けることができるか実験した。
乳酸実験 運動継続時間
     乳酸を与えていないねずみ  3分30秒
     乳酸を与えたねずみ  3分30秒近く
クエン酸実験  運動継続時間
     クエン酸を与えていないねずみ  3分30秒
     クエン酸を与えたねずみ  4分10秒
乳酸を与えても運動にほとんど関係がなく、
クエン酸を与えると、クエン酸なしのねずみに比べ40秒も長く運動を続けることが出来た。

(2)ラットの運動前、運動中、運動後の肝臓と筋肉グリコーゲン貯蔵を促進するための栄養処方 1993年
クエン酸を疲労困憊に至る持続性運動終了後にグルコースとともに経口投与すると、グルコース単独投与に比べて、肝臓と筋肉グリコーゲン再補充が促進された。
http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/dspace/bitstream/2241/6159/1/B0929.pdf

(3)クエン酸もしくはレモン果汁摂取による運動後の血中乳酸消去の促進 2001年
自転車エルゴメーターで運動してもらい、運動終了後に(A)クエン酸とグルコース、(B)レモン果汁とグルコース (C)グルコースのみ 飲んでもらい血中乳酸を測定したところ、クエン酸やレモン汁を飲んだほうが速く乳酸濃度が低下した。
クエン酸効果

http://www.vic-japan.gr.jp/vicJ/no.104/No104.pdf

(4)5km走の屋外ランニングで、クエン酸を飲んだ場合とそうでない場合で成績に違いがあるか調べた実験で、
結論は影響なかったというものでした。2004年
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15630143?dopt=Abstract

(5)膝の屈伸運動をしてもらいElectromyographic signals (EMG)で筋肉疲労度を測定した実験で、クエン酸を飲んだ場合とそうでない場合では結果に差はなかった。1995年
ただし乳酸値の回復はクエン酸の飲んだ方が速かった。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8549581?dopt=Abstract

(6)自転車エルゴメーターで高強度の運動をして直後に血中乳酸値を測定した実験で、クエン酸を飲んだ場合とそうでない場合では血中乳酸値に差はなかった。1998年
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9841956?dopt=Abstract

他にもあったのですが、全部あげるとキリがないので、ここらへんでまとめてみましょう。

クエン酸を運動前に与えると、
  運動継続時間は伸びる
  筋肉疲労度に差はなし
  運動直後の血中乳酸値に差はなし
  乳酸値がもとにもどるのは速い
クエン酸を運動後に与えると
  乳酸値がもとにもどるのが速い
  肝臓と筋肉のグリコーゲン貯蔵が促進

どうやらクエン酸を摂取することで、乳酸は速く代謝され、筋グリコーゲンも速く回復するみたいです。
以上からクエン酸を摂取したほうが、乳酸は速くエネルギーとして再利用されると考えてもよいのではないでしょうか?

そこで、最初の質問
 「クエン酸は乳酸をたまらなくする」と聞きますが乳酸がエネルギーならクエン酸は摂取しない方がいいのでしょうか?
に対する答えは
            クエン酸は摂取したほうが良い
となります。

ではクエン酸はどういう風に体内で使われるのでしょうか?
そこでクエン酸回路の登場です。

ここからは生化学の話になって難しくなってしまいますが、お付き合いください。

【クエン酸回路】
クエン酸回路とは、1937年にドイツの化学者ハンス・クレブスが発見した反応経路で、脂肪、炭水化物、タンパク質などのエネルギー代謝において最も重要な経路で、細胞内のミトコンドリアで行われています。
この発見でクレブスは1953年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
そして最初の反応の産物がクエン酸であることからクエン酸回路と命名されました。
moromi-su1[1]

ネットでクエン酸のことをググってみると、ほとんど人はクエン酸回路を引き合いに出して
        クエン酸摂取 → クエン酸回路が回る → 乳酸の代謝促進
と説明しています。

一見正しそうに見えるのですが、これは間違いです。


クエン酸回路の本質とは、一言でいうと
          アセチル-CoAのアセチル基を酸化し,2分子のCO2に変換する
反応だということです。
そして、このとき生じたエネルギーが次の呼吸鎖(電子伝達系)でATP産生に使われるます。

反応の始まりにはアセチルCoAが必要
           アセチルCoA + オキザロ酢酸 → クエン酸
となって回路が回りだします。

重要なのはアセチルCoAであって、クエン酸ではないのです!

クエン酸がなくても回路は回りだします!
クエン酸は途中経過で一時的に現れるだけです!


【ミトコンドリアとクエン酸】
でも、クエン酸を摂取してクエン酸が増えれば、もっと回路は回わるのでは?
そう考えるのは普通ですが、実際はそうはならいのです。

クエン酸回路はミトコンドリアの中で起こります。

ミトコンドリアの膜を自由拡散で通過できるのは、水、酸素、二酸化炭素、アンモニアだけで、
その他は専用の穴(輸送系、トランスポーター)で膜を移動します。

クエン酸の場合リンゴ酸-クエン酸シャトルという専用の輸送系があるのですが、
クエン酸をミトコンドリア外に輸送し、代わりにリンゴ酸をミトコンドリア内に輸送するという一方通行の輸送なのです。 

つまり、ミトコンドリア外のクエン酸は中に入ることはできないのです!
http://hobab.fc2web.com/sub4-mitochondrial_transporter.htm

【クエン酸の効能】
そうなるとクエン酸を摂取しても乳酸の代謝は変わらないという理屈が成り立ちます。

乳酸研究の八田秀雄教授は、次のように述べてます。
「クエン酸で乳酸は対処できない
クエン酸を摂ることで、乳酸が減って疲労回復といったことが言われています。しかしこれは実際には誤りです。クエン酸を多く摂ることによって、乳酸が速くなくなる可能性は少しはあります。これはクエン酸によって酸を中和する働きが少しよくなる可能性があるからです。しかしそれには数10g程度のクエン酸摂取が必要ですし、よくなるとしても400m走のような多く乳酸が出る後に、少し効果があるかといった程度です。市販されているクエン酸飲料にはせいぜい2-3gしかクエン酸は入っていませんから、それで乳酸の代謝が変わることはありません。さらに乳酸ばかりが疲労の原因ではありませんから、乳酸を対処することで疲労回復ということ自体が誇張なのです。これは疲労は乳酸で説明するというのが先にあって、クエン酸が疲労に効くならばそれは乳酸の代謝を変えるはずだ、という逆の論理でこじつけられているように私は思います。こうしたことは体育の科学56巻142-146にも書きました。」

しかし、しかしですよ、
上のいくつかの実験結果からは クエン酸は乳酸の代謝を促進するように思えます。

では経口摂取したクエン酸は、どうゆう作用をしているのでしょうか?
実は、その答えはまだ確立されていません

クエン酸について、いろいろと調べて、あれこれと考えてみましたが、

現象としては、クエン酸投与により乳酸代謝は促進すると考えてよい。
しかし、そのメカニズムは解っていない。

という何ともお粗末な結論になってしまいましたm(==)m

これで乳酸、クエン酸のお話は終わりです。
少しは役に立ったでしょうか? そうであれば幸いです。

乳酸の話(1)乳酸疲労説は間違い
乳酸の話(2)生体エネルギー
乳酸の話(3)乳酸はエネルギー源